秋山庄太郎「花」写真コンテスト(「花コン」)2002年第1回受賞式から続いている受賞式テーマ曲『あなたが微笑む日』。秋山庄太郎が「ハレの日のテーマ曲に!」と選んだ、作曲家・ピアニスト中村由利子さんの代表曲です。第15回から審査もされている中村さんに、秋山花写真芸術や花撮影スタイルについてお話をうかがいました。(聞き手=実行委員 上野正人)

◆被災者支援のコラボレーション作品

――中村由利子さんと秋山庄太郎のコラボレーション第1作『花舞台』(SONY/1990年)は、中村さんの楽曲と、ハイビジョン撮影した秋山の花写真をビデオ化した映像作品です。パッケージを開けると上品な花の香りが今も漂ってきます。この年、大阪で「花の万博」が開催、空前の花ブームでした。




中村 「パリで録音した私のアルバム『絹の薔薇』からの4曲に、秋山先生セレクトの花作品とで構成されています。秋山先生の個展など機会あるごとに上映していただいてきました。『えがおの日まで』が2作目、2011年東日本大震災の復興を祈って3月11日当日に作曲、秋山先生の花写真をご提供いただき、映像作品になりました」

――被災地支援作品『えがおの日まで』は現在もYouTubeでご覧いただけますし、秋山没後十年の節目に中村さんと制作したDVD『MELODY』にも収録されています。この映像作品集には、秋山の写真家人生を綴った同名の作品、福島市の花見山公園の作品『桃源郷』も入っています。東北被災地支援のために巡回展を催し、会場では秋山作品を上映しながら中村さんにピアノ演奏していただきました。

 『えがおの日まで』YouTube動画
 https://www.youtube.com/watch?v=Ng-h6-II2zw




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中村 「震災翌年の春、花見山公園で『桃源郷』を演奏して園主阿部一郎さんやご家族、来園者の皆様に聞いていただくことができました。阿部さんのやさしい笑顔が忘れられません。花コンも東日本大震災被災施設への作品寄贈に力を入れていましたね。受賞式では、グランプリ作品に、私がその作品からイメージする即興演奏をさせていただくようにもなりました」






――受賞者に音楽のプレゼントがあるコンテストは、おそらく花コンだけだと思います。花コンの審査講評で、「音楽が聴こえてきそうな視点からも」と中村さんは言っておられますね。秋山も、たとえば映画のワンシーン、小説のあるくだりをイメージする視点から花撮影をすることもある、と言っていました。

中村 「私の場合も、映画や小説などからのインスピレーションがありますし、たとえば自分の頭の中で思い描く切ないシーンにはこんな曲が似合うかしら…といったイメージから作った曲もあります」

◆花に語りかける 花が語りかける

――写真は個展開催の腕前でいらっしゃる中村さん、秋山の花写真をどんなふうにご覧になっておられますか?

中村 「秋山先生は花と対話をして撮影しておられたのかな、と思うんです。ポートレート撮影では、女優さんやモデルさんとに「出身地はどこ?」なんて言葉を交わしながら、自然な表情を撮られていたそうですが、お花とも話をされていたのかしら、と思いますね。写真の中のお花から「吹き出し」の言葉が出てくるかのようです。私も普段演奏や曲を書く時はテーマと心の中で対話します」






――秋山は「花に女を見、女に花を見る」と言っていますから、中村さんがおっしゃる通り、花をモデルに見立てれば、話しかけて撮っていたように思いますね。

中村 「花写真をどんなふうに撮ったらいいか迷っている方は、心の中で花と対話をされたら、今までとはちょっと違ったお花の表情を見つけられるように思います。写真撮影も作曲も、テーマと気持ちが一方通行ではなくて、コミュニケーションなのではないでしょうか。コロナ禍でそれが希薄になっているように私自身痛感しているものですから。秋山先生の花写真を見るたびに、花が私に話しかけてくれたり、花同士がおしゃべりをしたりしているような気がしてきます」






◆音楽のバックアップで花撮影

――秋山はスタジオで中村さんのCDを聴きながら、花撮影をしていたことがありました。皆さんもご自分の部屋であれば好きな音楽を楽しみながらの撮影がしやすいと思います。おすすめのCDをご紹介いただけますか?

中村 「最近注目していただいているのが、『Concentration』という2枚組CDで、私のオリジナル曲がソロとアンサンブル各8曲、ジャケットは秋山先生撮影のレンギョウです。医学的な音楽療法の研究理論に基づいて、オフィスで働く皆さんのリラックス効果と集中力アップのために放送している、私のオリジナル楽曲だけで編成されているUSENの専用チャンネルがあって、そこからの選曲です。コロナ対策の免疫力と、撮影のための集中力アップ、ということで、皆さんのお役に立てばと思いご紹介します。画家さんや作家さんから「由利子さんの曲をかけて仕事をしていると、とてもはかどる」と言われたことがあります」





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――昨秋、秋山庄太郎写真芸術館で演奏録音された『Best2019あなたが微笑む日』がリリースされました。

中村 「私が愛用していた年代物のピアノでの全曲新録音。秋山庄太郎写真芸術館でのコンサートでも思うことですが、第1展示室は音響がよく、また秋山先生がおられた場所ですから、先生の気や呼吸を感じます。普段とは異なる特別な気持ちで演奏できます。花コンのテーマ曲『あなたが微笑む日』や『花舞台』に収録している『誓い』も入っていますので、これらの曲を通して秋山先生の写真芸術を感じていただければ嬉しいですね」





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――花コン誕生のきっかけは、1960年に秋山が始めた、写真による福祉支援活動です。コロナ禍、地球に生きる人たちみんなの心が癒されるような作品のご応募がたのしみです。

中村 「花コンは、モデルになる花、花を育てる方や環境、花屋さん、撮影する方、プリントショップの方、審査やそれに関わる方、寄贈作品を飾る方、それをご覧になる方など、秋山先生発案によるこのコンテストの志を共有される多くの皆さんによるすてきなアート・プロジェクトだと思います。コロナ禍から解放されて、皆さんに微笑む日がやってくるよう、写真や音楽で乗り越えていきたいですね」

――ありがとうございました。



なかむら・ゆりこ
作曲家・ピアニスト/1987年オリジナルアルバム『風の鏡』以降、40枚を超えるアルバムを国内外でリリース。映画、ドラマ、アニメ(宮崎駿監督による三鷹の森ジブリ美術館オリジナル短編アニメーション『星をかった日』ほか)、TOKYO-FM『ジェットストリーム』のテーマ曲など、さまざまなメディアに楽曲を提供。これまでに約2000曲を作曲。また美術館でのライブ、ジャンルを超えた多岐にわたるコラボレーションも好評を博す。コンサートではお客様から頂くお題での即興演奏も人気が高い。
中村由利子オフィシャルホームページ http://www.yurikopia.com/



うえの・まさと
1954年東京生まれ。法政大学法学部法律学科卒業、同博物館学芸員課程修了。出版社編集部、美術館学芸員を経て、秋山庄太郎写真芸術館館長。2002年岳父秋山庄太郎と『秋山庄太郎「花」写真コンテスト』創設。特別支援学校で「写真」「職業」の授業、生涯学習講座などでの講演、災害被災地や障がい者施設の支援活動にもかかわる。編著に『科学からのメッセージ/カラーフィルム』、『写真家秋山庄太郎』など多数。